Last UpDate (2011/2/26)
遂に今年もこの日がやってきた。
主君である魔帝マルスーンを除いて、如何なる戦場、如何なる戦いでも無敗を誇る、魔帝軍きっての実力者、
「魔剣将軍」シスカ。
その彼女が決死の覚悟で挑む日がある。
それは、二月三日節分。
幾年前であっただろうか、主君が異世界のとある国の風習を聞きつけ、それを行うようになったのは。
「節分の日、年の数だけ大豆を食べると、その一年は無病息災で過ごせる」
我が軍でその任を仰せつかったのは、シスカ、レン、リリンの三姉妹。
生まれて千数百歳の妹たちは難なくこなすが、七億年ちょっと生きているシスカにとって、
これは正に一つの戦いである。
一時、「恵方巻き」で茶を濁す時期もあったが、その年は魔帝城に勇者が訪れたり、主君が魔王検定に落ちるなど散々な年だった。
そうしてやはり豆を食べる事になったのだが、勇者はやはりやってくる有様で、もうそれに御利益があるのかどうかすら怪しい。
しかし、確実なことが一つだけあった。
それは毎年、豆の数が一粒ずつ増えていると言う事。
長寿、それも飛び抜けて長い時間を生きるシスカにとって、端から見た一粒との重みは全く違う。 十年で十粒、百年で百粒増えるのだから。
節分の後は一月はベットでうなされ、何も喉を通らない。
そんな状況を初めて知ったマルスーンの提案で恵方巻きになったのだが、その気遣いも数年で水泡と帰した……。
「シスカ様、今年の大豆7億ちょっと。用意できたミノ!」
仕事をやり終えた達成感からか、明るい調子でミノタウロスがシスカに声をかけた。
この日だけは鬼役であるマルスーンに、豆を投げつけ、追い回せるので心なしか朝から上機嫌である。
「今年の大豆の出来は最高だったミノ。いつもよりも少し大きめでおいしいミノよ!」
グッと親指を立てて、決めるミノタウロス。
「良いでしょう。おいしいに越したことはありません! 今年も食べきって見せますよ!」
シスカも気合い十分。
いざ、節分部屋へ入ったシスカだった……が?
「こっこれは……!」
部屋の中いっぱいに積まれている升に入っていたのは、大豆ではなく、豆腐だった。
「マルスーン様が、
『毎年ご苦労様。いつも食べるのが大変そうだから、今年は1つあたり300gも大豆が入った豆腐にしてみたよ。 コレでキミにかかる負担が減る事を願うよ』
といって、全部豆腐にしてくれたミノ」 いつもよりも心なしか升の数が多い気がする……。
だが、ここは!
「ミノ太郎、マルスーン様に伝えてください。 シスカは、マルスーン様の優しさに胸がいっぱいになりました。
有り難うございます……。と」
豆腐の入った升のタワーを前に、一歩踏み出すシスカ。
「わかったミノ。健闘を祈るミノ」
まじめな顔でその場を後にする、ミノ太郎と呼ばれたミノタウロス。
彼が去った後、シスカの孤独で果てしない戦いが始まった。
大豆に加え、水という新たなる戦力を加えた敵は、彼女の前に無言で立ちはだかっていた。
関連絵
2008年2月「この一年……全ては私の手にかかっている!?」
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